JFEスチール傘下で電炉専業のJFE条鋼(東京都港区)は2027年度までの3カ年の中期経営計画で、国内製造設備の刷新などに乗り出す。人口減少に伴う内需縮小が進む中、鉄スクラップから鋼材を作る低炭素の電炉工程をどう維持・強化するのか。 激変の時代を乗り越える成長戦略を渡辺敦社長に聞いた。
―25年度の鋼材需要の見通しは。
「建設市場でコスト増や人手不足による工期遅れが生じており、24年度に続き需要低迷が予想される。 米国の関税措置について高炉メーカーほどの直接影響は受けないと思われるが、日本経済への影響を注視する。 量を追い過ぎず価格重視の販売姿勢を貫き、老朽設備への投資などのコスト増大を踏まえて再生産可能な販売価格を顧客にお願いしていく」
―海外戦略は。
「国内販売が低調な中で海外需要を捕捉していく。 韓国や台湾向け輸出を主体にしてきたが、中国産の鋼材が入りにくい豪州の商品規格の認証を受けるなどして顧客開拓を進める。 月間輸出量を(現状比約1割増の)約2万トンに増やしたい」
―新中計における設備投資の方針は。
「稼働後30年を経過した鹿島(茨城県神栖市)と姫路(兵庫県姫路市)、水島(岡山県倉敷市)の各製造所で老朽設備を更新する。 水島ではイタリアのダニエリ製の次世代型・製鋼用電源システム『Q―ONE(キューワン)』の導入や炉体更新による溶解電力削減を通じ、省エネルギー化やコスト合理化を図る。 新中計の年平均投資額は前中計比約2倍に増える見通しだ」
―電炉の高温溶融による資源リサイクルはどう強化しますか。
「水島製造所で低濃度ポリ塩化ビフェニール(PCB)廃棄物の無害化処理について環境大臣認定を受けた。 PCBの無害化と鉄リサイクルを同時に行うのでエネルギー消費を減らせる。 さらに電気自動車(EV)バッテリーや太陽光パネルなど廃棄の増加が見込まれる処理困難物を研究し、電炉を生かした再資源化や埋め立ての削減に貢献していく」
―人的資本など組織力の向上策は。
「労働市場がタイトになる中、人材確保と社員への継続的な還元のために抜本的な労働生産性の向上に取り組む。 清潔で働きやすい職場作りや柔軟な働き方、仕事の成果を実感できる評価・処遇といった福利厚生や作業環境の改善を“従業員満足度投資”と位置づけて、年間約2億円を継続的に投じる。 デジタル変革(DX)に向けては全国5カ所の製造所で集めたデータをクラウド上に取り込む。 操業を見える化し、設備稼働率の向上や操業指標の改善、品質向上などを実現していく」
【記者の目/改革加速が生き残りのカギ】
高炉に比べ二酸化炭素(CO2)排出量を約4分の1に減らせる電炉への社会的ニーズは高まりを見せている。 一方、人手不足は建設需要の縮小にとどまらず、鉄鋼メーカーの事業基盤も揺るがそうとしている。 主要設備の更新時期と重なる今回の中計期間において、人的資本の強化やDXを含めた一体改革を加速できるかがカギとなりそうだ。(編集委員・田中明夫)