福井県、石川県、富山県を中心とする北陸エリアが、繊維や医薬品・中間体、ファインケミカル、金属加工などの伝統的な地域産業を土台に、北陸全域で経済と環境を両立するカーボンニュートラルとサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現へ地域の産官学が密接に連携し活発な活動が加速し始めている。折からの世界各地から訪れる旅行インバウンド需要も、この地域へ経済的なカンフル剤となっているなか、足元の状況は「一次的には、持ち直しの動きで勢いを欠くものの製造業・非製造業とも設備投資や事業拡大の投資と意欲は2025年度計画で昨年度を上回っている」(経済産業省中部経済産業局 電力・ガス事業北陸支局)と、粘り強い北陸地域は、環境潮流を地域で取り込みながら、次代へ向けた新しい北陸を創出しようとしている。
福井県では、20年7月に策定した「福井県長期ビジョン」において、県として50年の温室効果ガス実質ゼロのゼロカーボンを目指す目標を公式に表明。 すでに広範な活動を行っている産官学連携組織となる「カーボンニュートラル福井コンソーシアム」内へ、昨年に地域全体の企業なども巻き込み環境対応や、それにかかわる事業を通じて広く異業種交流の枠組みともなるオープンフォーラムも設置した。 同フォーラムを通じ今年3月には最新版となる福井県内企業・大学等のカーボンニュートラル関連技術シーズ概要一覧を公開、企業と大学や公的研究機関などが持つ新技術や、新しい取り組みなどをクロスリンクさせ、環境やカーボンニュートラルに資する地域発のビジネスや企業間交流の芽を生み出していくのが狙いだ。
今年5月には、北陸3県がタッグを組み、初めての開催となる地域からオープンイノベーションを巻き起こす経済交流会、「関西・共創の森」Extra DAYSが近畿経済産業局の旗振りの下、産業技術総合研究所(産総研)の北陸デジタルものづくりセンター(福井県坂井市)、中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局などの協力で盛大に開催(日華化学のNICCAイノベーションセンター内)された。 関西エリアで実績のある企業間マッチングの交流事業で、これの北陸版となるもの。 当日は総勢100人を超える企業参加者が北陸3県をはじめ、関西から同センターに集まり、自社の事業紹介からランダムに配置された各テーブルで参加企業間が自由に交流するなど「非常に有意義で、ぜひ来年も開催してほしい」(参加した石川県の樹脂加工製品企業の社長)という声が相次いだ。
交流会では、北陸を代表する製造企業としてシャルマン、セーレン、清川メッキ工業、日華化学、スギノマシン、成宏電機の6社の事業と研究開発にかかわる取り組みも紹介され、各企業が協業先の探索や製品開発にかかわる技術要望で活発な交流が交わされ、同センター内は地域経済交流の熱気に包まれた。
また石川県では7月、25年度の石川イノベーション促進セミナーが17、18日の2日間にわたり、石川県工業試験場(金沢市)で開催された。 産総研との共催により、東京大学先端科学技術研究センターの特別講演と産総研セミナーも併催。 石川県の伝統的な産業とデジタルモノづくりの融合を目指す北陸地域の製造業や企業関係者らが多くが集まり、リアル・オンラインのハイブリッド形式で合計23テーマで技術成果発表およびセミナーが行われた。 両日に石川県工業試験場の化学食品部や九谷焼技術センター、電子情報部、繊維生活部、機械金属部の各部が地域産業と密接にかかわっている金属素材や水素、人工知能(AI)活用の新技術、さらにサステナブル素材による新繊維強化プラスチック(FRP)の開発など多数の技術開発成果を発表、さらには工業試験場が持つ新設備紹介も行われた。
18日の産総研セミナーでは、ウェルビーイング実装研究センターの人協調AI・ロボティクス研究チームの山野辺夏樹研究チーム長が「協調するヒトとロボットが切り拓く未来・製造業の生産性向上と作業負担軽減」、人工知能研究センターの実体知能研究チームに所属する花井亮主任研究員が「ロボット基盤モデルに関する動向と産総研の取り組み」に関する話題を披露した。 地域の多様な製造業への応用や課題解決を目指し、参加者は活発な質疑応答を繰り返していた。