テルモの鮫島光社長最高経営責任者(CEO)は、27日に開催した会見で約15億ドル(約2211億円)で買収すると発表した英オックスフォード大学発ベンチャー「OrganOx(オルガノックス)」について、「今後10年間で売り上げ1000億円も視野に入る成長軌道を描いている」と展望を語った。移植用の肝臓を保管・輸送するデバイス「メトラ」を米国中心に展開し、今後は航空輸送の適した既存品の小型タイプ「メトラL」のほか、2030年には腎臓用の移植デバイス「メトラK」の実用化も計画する。 今年度内予定のクロージング後には日本での展開可能性も検討し、「いろいろなステークホルダーと対話を重ねていくことが第一ステップ」と述べた。
テルモは25日にオルガノックスの買収を発表。 臓器移植の領域に参入する。 鮫島社長は、買収先の選定基準として、「技術革新性」「競争優位性」「テルモとのシナジー」「財務的な魅力」「企業文化の親和性」の5つを挙げ、「5つを完全に満たす、まれに見る案件。 あの買収は見事だったと後年になって評価される」と自信を示した。
臓器移植をめぐっては、グローバルで年間15万件以上が移植されている一方、待機リストは47万件と需要に供給が追いついていないのが現状。 待機期間中に亡くなる患者も多く、待機リストに入るべき患者が登録されていなかったり、病状が悪化したリストが外される場合もあり、「潜在的な待機患者は臓器移植件数の10倍とも推計される」(鮫島社長)。
とくに肝臓移植は、肝臓が血が止まっている状態の耐性が低く、脳死ドナーの移植率は高い一方で、大多数を占める心肺停止からのドナー回収が進んでいない。 従来の手法だと保存期間は6時間程度が限度で、使用可否の評価も難しく、廃棄されるケースもある。
こうしたなか、メトラの常温機械灌流(NMP)を用いた常温保管技術では米国では12時間、欧州では24時間の保存が可能。 昨年の売上高は100億円を突破し、黒字化も達成していることから、「革新的なソリューションで急成長を遂げた。 すで高収益モデルを確立しつつある」と強調。 臓器移植の領域に「参入する企業も多く競争は厳しくなるが、独自の付加価値で競争優位性を維持できる」と述べた。
買収完了後、当面は既存の事業部に属さず、CEO直轄の新規事業ユニットとして運営する。 オルガノックスの売り上げの大半を占める米国では、移植デバイスを主に移植センターに供給し、テルモが営業基盤を持たない販路だが、「大規模なセンターで症例数7割ぐらいをオルガノックスがカバーしている。 腎臓に展開しても営業部隊を倍増する必要がなく、営業のレバレッジが低い」(畑謙一経営企画室長)と述べた。