2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の大阪ヘルスケアパビリオンに出展しているファーマフーズ。同社のブースは連日、多くの人であふれている。 卵殻膜由来繊維「ovoveil(オボヴェール)」を使った製作物などを展示しているが、来場者は宙を舞う「天女の羽衣」やクッションの生地などが「鶏の卵の殻の内側にある薄膜である卵殻膜から作り出す繊維でできている」といった説明を受けると卵殻膜を繊維に変えるバイオ技術に驚き、感嘆の声を上げている。 ファーマフーズで大阪・関西万博推進本部長を務める原田清佑氏は「訴求したい内容が伝わっている」と手応えを感じている。
大阪・関西万博で屈指の人気を誇る大阪ヘルスケアパビリオンのリボーン体験ルート。 カラダ測定ポッドで測定したデータから生成された25年後の自分(アバター)と出会った後に進むエリア「ミライのヘルスケア1」に足を踏み入れると、何かが空中を舞っているのが視界に入る。 近づいてみると浮遊しているのは、ファーマフーズのブースで展示されている天女の羽衣だ。 天女の羽衣は縦糸にシルク、横糸にオボヴェールを使用して織った薄生地。 地面に設置している円形の装置から風を中央に送ることで上昇気流が発生し、天女の羽衣はこれに乗って舞う。 その後、自重で落ち、再び舞い上がる。 上昇するたびに舞い方は異なっており「偶発的な美しさを表現するとともに、卵の可能性は無限というメッセージも込めている」(原田氏)。 ミライのヘルスケア1に入ってきた子どもの中には一目散に天女の羽衣に駆け寄ってくる子がいるという。
日本では年間約260万トンの鶏卵が生産され、卵黄、卵白が消費された後に残る卵殻は年間26万トン発生している。 また、この量の卵殻には約1万トンの卵殻膜が含まれている。 卵殻、卵殻膜は多くが焼却処分されており、多量の二酸化炭素(CO2)を排出している。 卵殻膜はウイルスや細菌、紫外線からヒナを守り、生育に必要な酸素と水分は透過させる。 ファーマフーズは優れた機能を有する卵殻膜に着目。 卵殻膜を繊維素材・製品、農業資材であるバイオスティミュラント、蓄電素子用ナノ素材にそれぞれアップサイクルしようと研究開発に励んでいる。
卵殻膜由来繊維であるオボヴェールは普及に向け、進展している。 オボヴェールは卵殻膜を加水分解して得られる溶液にビスコースを混合して綿にし、これを撚って糸、そして生地に仕上げる。 生地はシルクやカシミアのような風合いを持ち、臨床試験においてオボヴェールを30%配合した衣類は保湿性に優れ、肌のバリア機能を維持できることが確認されている。 オボヴェールは環境負荷が大きい産業で、環境意識が高い人が多いファッション業界から注目されており、すでに国内外のファッションショーでオボヴェールを用いたドレス、インナーウエア、ルームウエアなどが披露されている。
大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオン内に出展している同社のブースではオボヴェールを中心に「『命を守り、育む』という鶏卵の『食』以外の可能性を発信している」(同)。 来場者に「すごい。 未来が変わりそう」といったことを体感してもらえるよう展示に趣向を凝らしている。 同社は京都企業であることから京都の伝統工芸とコラボレーション。 科学と京都の伝統芸術を組み合わせ、来場者の視覚・触覚・嗅覚・聴覚・知覚の五感に訴えている。
天女の羽衣と同様に壁面に吊り下げているタペストリーにもオボヴェールを使用している。 タペストリーはオボヴェールとシルクを交織した丹後ちりめんで、京友禅で模様を施している。 オボヴェールに触れることも可能。 ブース内に卵型のクッションを複数置いているが、オボヴェールとシルク、オボヴェールと綿の2種類のカバーで覆っており、さわり心地を楽しめる。
また、21日間で卵からヒナが誕生する様子を映像で紹介しており、命が生まれる尊さを子どもたちには知ってもらい、大人たちには再認識してもらっている。 このほか、陳列している卵殻、卵殻膜、オボヴェール製の綿と糸を見てもらいながら、オボヴェールを使って作製した衣装を身にまとった同社の社員スタッフやアテンダントが卵殻から綿・糸を作る過程を説明している。
4月中旬に大阪・関西万博が開幕して以降、7月末までに同社のブースには延べ約22万人が訪れた。 来場者にアンケートに答えてもらっているが「卵の殻から繊維を作り出すバイオ技術に驚嘆した」といった回答が多く、同社が展示を通じて伝えたい思い、メッセージが来場者に届いているようだ。
京町家には季節に応じて建具や敷物を変える「設(しつら)え替え」という生活文化がある。 ファーマフーズも大阪ヘルスケアパビリオン内のブースの設え替えを行った。 タペストリーのデザインを新緑の緑から、地球上の生命が生まれた場所で、京都文化の源泉である水をイメージした青色を基調とする盛夏バーションに刷新。 またブース空間の香りも変えた。 大阪・関西万博の終盤には秋の装いに変更する予定で、すでに訪問したことがある人も再訪し楽しめる。
オボヴェールを利用した商品はすでに上市されている。 大阪・関西万博会場内に設けられているセブン−イレブンの店舗ではオボヴェールを用いたハンドタオルと靴下が売られている。 またファーマフーズは、オボヴェールを使ったライフスタイルウエアブランド「ovonir(オヴォニール)」を立ち上げた。 現在、同ブランドのオンラインショップでリブソックスとレッグウォーマーを販売中。 今後、トップス、ボトムス、アンダーウェアを発売する予定で、品揃えを拡充していく。